ヘリコバクターピロリ菌もしくはピロリ菌という言葉を一度くらいは聞いたことがあるでしょうか?日本人に感染率が高く、様々な胃の病気に関与する有名な細菌です。今まではピロリ菌に対する保険診療は胃の特定の病気にかかった方のみに限定されていました。しかし最近のトピックとして平成25年2月21日に「ヘリコバクターピロリ感染胃炎」が新たに保険適用となったことにより治療の敷居が低くなり、内視鏡検査をおこなったうえでヘリコバクターピロリ菌(以下ピロリ菌)の感染が確認された場合は誰でも除菌のための保険治療を受けられるようになりました。
ピロリ菌は胃の粘膜に生息しているらせんの形をした細菌です。ピロリ菌は胃の粘膜に好んで住みつきますが、強い酸がでる胃の環境でなぜピロリ菌は生きることができるのでしょうか?その秘密はピロリ菌の持つウレアーゼという酵素です。この酵素によって胃の中の尿素物質からアンモニアを作り出すのです。アンモニアはアルカリ性なので胃酸を中和することにより身を守っています。
感染経路はいくつかの説があげられていますが、まだはっきりとはわかっていません。
様々な経路で口から入って感染するということが大部分であろうと考えられています。
ピロリ菌に感染すると胃に炎症が起こります。その炎症が長い年月をかけて持続することで胃の粘膜が萎縮していきます。この現象は胃粘膜の老化で胃や十二指腸潰瘍がおこりやすくなるほか、ピロリ菌によって炎症状態にある胃の粘膜では胃の細胞のDNAが傷つけられ胃がんに発展しやすくなることが分かっています。そのほか胃のリンパ腫やある種の血液病変にも関与があると考えられています。
ピロリ菌の感染の有無については内視鏡を行う方法と使わない方法で診断が可能です。内視鏡を使う方法としては胃粘膜をとってきて行う方法が一般的です。内視鏡を使わない方法としては血液や尿、便を採取してピロリ菌の抗体や抗原を調べる方法、呼気テストといわれるウレアーゼの活性を調べるものがあります。
ピロリ菌を薬によって排除する治療は、抗菌薬2種類とこれらの抗菌薬が力を発揮できるよう胃酸分泌を抑えて環境を整える胃薬の3剤を1週間服用することによって行います。
この方法により80%程の除菌成功率がありますが、逆に考えると20%ほどの方は除菌に失敗していることになります。
そのため1か月を経過したのちに除菌に成功したかどうかの除菌判定をかならず行う必要があります。
除菌に失敗した際は、別の抗菌薬を使用して2次除菌を行うことになります。
除菌治療によるデメリットとしては除菌に成功すると胃の炎症がなくなることにより胃酸分泌機能が回復し、胸やけなどの胃食道逆流症の症状が出ることもあるといわれています。
冒頭にも触れたようにピロリ除菌の保険適用が拡大されたいま、今後さらに普及、拡大されていくと予想されます。しかし注意しなければいけないことがあります。それは報道など胃がん発生の予防のメリットばかりが先行しているように見られますが、胃がん発生の可能性がなくなるわけでも検診の必要がなくなるわけでもありません。日本消化器がん検診学会はピロリ除菌の胃がん発生予防効果は限定的であり、患者への効果限界に関する事前の十分な説明と適正な事後指導が不可欠だとの声明を発表しております。ピロリ菌についてはこのようにいろいろと詳細が分かりにくく、正しい情報が正確に伝わらず誤解をまねいていることも事実であり皆さんの正しい理解と注意が必要です。