10月になったばかりなのに震えるほど寒いオランダのデルフトからお便りします。デルフトは青色の魔術師フェルメールの出生地で有名です。ここにはまた、世界的に有名なデルフト工科大学があり、医学との連携が昔から活発なことで知られています。まさに国際先端医療技術学会の開催地にふさわしい都市です。
そのデルフトに世界中から医工連携のエキスパートが集まり、白熱した議論が交わされました。もっとも印象に残ったレクチャーは、AI(人工知能)に手術をさせる研究です。AIは人間より判断力に優れ、感情や疲労による弊害のない安定した手術を行う可能性があります。現在の手術用ロボットは飽くまでもひとが操作しなければならないのですが、AI手術が実現すると、外科医は横にいてチェックするだけの役目になるのでしょう。途方もなく遠い道のりですが、真面目に研究しているチームがあり、またそれに莫大な金を投資しているひとがいる事実だけでも驚愕でした。ちょっと怖い気もしましたが、、、、
同行した谷田先生は、針のように細い手術器具の開発について発表をしました。日本ならではの繊細な機器開発に、世界は興味津々で聞き入っていました。
私は、30分の基調講演で、本当の低侵襲とは何か という話をしました。腹壁への侵襲を最小化するだけでなく、病変を抱えている臓器そのものへの侵襲の軽減にもっと力を注ぐべきだと主張し、メディカルトピアでの臓器温存手術の取り組みを紹介しました。たくさん質問がありましたし、フロアでも多くのひとから握手されて嬉しく思いました。
最もストレスが多かったのが、編集委員会です。私はこの学会の機関誌の編集長をやっているのですが、この運営が結構難しいのです。毎年紛糾します。どうやって雑誌の評価を上げ、質の高い雑誌の投稿を増やすかというのが、一番のトピックです。各国の猛者がそれぞれ強烈な意見をぶつけてきます。事前の準備も大変ですが、その場で私のたどたどしい英語で彼らをまとめなければなりません。藤岡副院長の冷静で思慮深いマネジメント術を思い出しながら乗り切りました。でもタフな仕事ですが、達成感があります。
今はヘビーな仕事が終わってホッとしています。落ち着いてみると、デルフトはとてもチャーミングな街です。小さな運河が網の目のように走り、細い石畳の道沿いにはギルド時代から使われていたレンガ造りの小さな家々がひしめき合っています。ふと見上げると、教会の向こうの空の青さは、フェルメールが使ったトルマリンブルーにも見えます。フェルメールも歩いたであろう石畳をゆっくり散歩して、デルフトに別れを告げようと思います。
院長金平記載