獏之浪語(11) 「自分を突き動かすもの」

ボンジョルノ! 今日も新しい仲間が二人増えてとても嬉しいです。よろしくお願いします。舛方さん(内視鏡部)の話も良かったですね。忘年会のときのダンス、プロ並みでしたもんね(笑) 

さて24年前、私はドイツのチュービンゲン大学に留学しました。当時世界の内視鏡外科ではトップを走っていたゲルハルト・ブエス先生に手術を習うためです。私がチュービンゲンに行ったとき、雷が落ちたかと思うようなショックを受けたことがあります。それは、ブエス先生のところの設備や規模です。行く前は、世界のトップはどんなに恵まれたところで仕事しているんだろうと期待していました。ところが行ってみたらなんと狭いラボひとつ。スタッフも若手がたった4人。動物実験施設もぎりぎりの設備と人材。予算も少ない中で、あの世界をリードする仕事を繰り出していたのです。金沢大学にいた私は自分の大学の研究設備や資金がものすごく恵まれていたことを初めて実感しました。

チュービンゲンのブエス先生やスタッフは、乏しい資源や設備の中でもあきらめませんでした。たとえば動物実験には多額の費用がかかります。ある日スタッフのひとり、マーク・シュアが言いました。「エイジ、費用を節約するために、と畜場へ行って新鮮な臓器をくりぬいて持ってきて、それをボックス内に固定すれば、動物実験と同じくらいの研究ができそうじゃないか。しかも一回につき何万円も節約できるぞ。」それから毎週月曜日の早朝は私たちのと畜場通いが始まったのです。その実験からは世界を唸らせたいくつもの成果が得られました。いまもときどき懐かしく思い出します。

話は変わりますが、いまTBSで下町ロケットやってますよね。見ている人います? (藤岡副院長を始め、10人くらいが手をあげました)これまた「倍返し」に勝るも劣らぬ面白い、池井戸潤さんらしいストーリーなんです。佃製作所っていう下町の小さな町工場が舞台です。どこにでもあるような小さな町工場だけど、社長も職員も夢をもっているんです。「おれたちの作った部品をロケットに使ってもらってそれを宇宙に飛ばしたい。」っていう夢です。

その工場に悪いことが重なって起きて倒産寸前まで追い込まれます。ライバル会社からの特許侵害裁判や、重要取引先の取引解消。赤字転落借金地獄でもう終わりかっていう時に、昔開発したバルブの特許が宇宙開発事業のロケットに必要だということが判明。日本トップの帝国重工っていう巨大な会社がその特許を20億で買いに来たのです。佃製作所は騒然となります。倒産の危機が救われる。当然だれもが20億に期待したのです。しかし特許を売ってしまえば、佃製作所の名前で作った部品が宇宙を飛ぶ夢が消えてしまう。夢を選ぶか現実を取るか。社長も会社も大きく揺れ動いているところで次回に続くです。

 この小さい町工場が、大企業より先に宇宙開発事業で世界に通じる技術を開発したというのがすかっとします。なぜそんな偉業を果たせたか。すれは社長も社員もみな、小さい工場だからと言って自分たちに制限を設けていなかったことだと思います。夢をでっかく抱き、工場の規模や社会的評価などに縛られず、ひたすら情熱をもって夢を追いかけたから果たせたのだと思います。

 チュービンゲン大学のブエス先生と、佃製作所の佃航平社長は私にはダブって見えます。そしてメディカルトピアにもそんな精神が息づいていることを実感しています。

 最後になりましたが、今日の英語は、propelです。ひとを動かす原動力を表現する言葉にはいろいろありますが、わたしはこのpropelっていう英語が好きです。飛行機のプロペラは同じ言葉から来ています。「おれはその夢に突き動かされている。」っていうのは「I am propelled by the dream」って言います。強くpropelされるような夢を持ち続けたいと思っています。

院長 金平永二 記 

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